月面探査車「YAOKI」はなぜ小さいのか?

世界最小の月面探査車「YAOKI」

こんにちは。YAOKIレポーターのゆいです。

YAOKIは、超小型、超軽量、高強度を兼ね備えた探査車型のロボットです。今回は、YAOKIのサイズに関するお話です。小さくて軽いことのメリット、そしてそもそもなぜ小さくしようと考えたのか、これらの疑問を社長の中島に取材してきました。

YAOKIの「超小型」「超軽量」にまつわるストーリーをお届けします!

YAOKIは手のひらサイズ

YAOKI

YAOKIは手のひらに乗るくらいの大きさです。2021年8月現在の最新モデルは、縦15cm、横15cm、高さ10cmとなっています。身近な例としては、千円札の横幅がちょうど15cmですので、手のひらに千円札を乗せてイメージしてみてください。そのコンパクトさを感じていただけると思います。

実際にこの大きさは、従来の4輪月面ローバーの体積の1/50を実現しています。ご参考までに、NASAの火星探査車パーサヴィアランスは3m x 2.7m x 2.2mですので、何とYAOKIの約8000倍です。YAOKIとはサイズ感が全く異なりますね。

なぜ小さくしようと思ったのか?

小さい理由は、月の輸送費の問題が絡んでいます。

例として、メルカリで本を送る場合を考えてみましょう。1kg以内の本は全国175円で送ることができます。では、もっと大きな荷物を送る場合はいかがでしょうか。60サイズ2kgなら700円、160サイズ25kgなら1600円です。このようにサイズや重さが大きくなる程、輸送費は高くなりますよね。これは月に送る場合も同じです。小さく軽いものほど安く月まで送ることができるのです!

月の輸送費の相場は1kg当たり約1億円です。当時、月面ローバーは小さくても5kg以上というのが一般的でした。それでは1回月に送るだけで5億円以上かかってしまいます。

そこで、一人でYAOKIを作り始めていた中島は「それなら1kg以下まで小さくしよう」と考えたそうです。このような逆転の発想で、現在のYAOKIが生まれたのですね!

小さくて軽いことの3つのメリット

月面探査車YAOKIには、小さくて軽いことによって3つのメリットがあります。

一つ目は、上記の通り、月への輸送費を安く抑えることができることです。

二つ目は、打ち上げ前の試験がしやすいことです。小さくて軽いからこそ、小規模な試験設備で済むため、1/6重力での走行試験や、真空での走行試験などをいち早く実施することができました。費用も低コストで済みます。更には、小さくて軽いので輸送も楽です。YAOKIはスーツケースの中に入れて持ち運ぶこともできますし、飛行機では手荷物として機内に持ち込むこともできてしまいます。

そして三つ目は、機体自体が低コストで作れることです。気軽に複数台作ることができますし、壊れても何度でも作り直せます。壊しても金銭的に負担が小さいので、ハードな実験に何度もトライすることができます。YAOKIはそうして何度も壊れてはバージョンアップを重ねてきたのです。

他にも、サイズに関して気になることを質問してみました。

機体が小さいとバッテリーも小さくなって、稼働時間が短くなってしまうのでは?

これは逆に、YAOKIが小さいので消費電力も少なくて済む、すなわち走行効率が良いという見方ができます。実際にYAOKIのバッテリーは6時間持ちます。バッテリー駆動で6時間というのは一般的には最長級。確かに普通のラジコンは30分も持たないですよね。

走行効率が良い理由は他にもあります。タイヤと地面との接触面積を最適化する構造になっていることや、車輪の中に砂が溜まりづらい構造になっていることなど、様々な工夫がなされているのです。

YAOKIは充電できるの?

残念ながら、2021年の時点は、バッテリーが切れるとYAOKIは冬眠状態に入ります。

将来的には無線充電によって長期間のミッションをこなせるようバージョンアップしていく予定です。無線給電は月面開発のカギになるとも言われていますので、YAOKIにも間違いなく実装されることになるでしょう。

なぜ小さくできたの?

「小さくする」というのは、簡単なようで、実際には様々な苦労があったのではないでしょうか。なぜ、YAOKを小さくするという挑戦に向き合い続けられたのか、中島に聞きました。

一人で作るからこそチャレンジしやすかったと言えます。

通常、組織で開発する際には役割分担があります。その場合、ある部署がチャレンジしようと思ってもなかなか難しいんです。チームで取り組む際も同じで、失敗した時のことを考えると責任があるので、チャレンジゾーンにはなかなか攻め込めない。

その点、本当に無駄なく小さくするということは、一人だからこそ忖度なくチャレンジできた。他者にお願いしたら怒られてしまうような無理難題も、自分で決めて挑戦できる。職人的な難しい作業もあったけれど、段々慣れて出来るようになりました。

チームで協力するからこそできることもありますが、一人だからこそ、とことん追求して生まれたのがYAOKIなのですね。

まとめ

今回は超小型の月面探査車「YAOKI」のサイズにまつわるストーリーを紹介しました。

小さいことには理由がある。YAOKIが月に行き、話題になった際には、ぜひ周りのお友達にも教えてあげてくださいね。

執筆者プロフィール

ゆいYAOKIレポーター
宇宙に憧れる医学生。
月や火星にたくさんのヒトやロボットが暮らす未来に想いを馳せている。将来の夢は宇宙で働くお医者さん。

あまり周りに流されることなく冷静であるものの、試験前も危機感がない。良くも悪くも非常にマイペースな性格である。歩きながら空を見上げることが好きで、そのためよく電柱にぶつかる。