【YAOKIのアートセッション】石多未知行さんと対談!in MASC東京事務局(2)

本記事は、「【YAOKIのアートセッション】石多未知行さんと対談!in MASC東京事務局」の第2回目の記事です。今回は、日常に溶け込んでいる「本質」を浮き上がらせるをテーマにしたクロストークです。

引き続き、石多未知行さん、井上奈保未さん、中島の対談をお楽しみください。

(2)日常に溶け込んでいる「本質」を浮き上がらせる
〜創作と設計に共通する、原理と原則〜

自分と向き合う時間が、豊かさを生む

中島

石多さんのアートのアプローチとはどのようなものですか?
例えば、波というアナログに、それを強調するようなプロジェクションマッピングを行うというアプローチは、どのようにして生まれたのですか?

石多さん

逗子のアートプロジェクトにずっと関わっていました。ある時期、逗子海岸にネガティブなメディア報道がありました。それで、アーティスト視点からの海を演出するプロジェクトをすべきだと思い、色々なアーティストに参加してもらい、実証実験を行いました。

その中で一番面白かったのが特殊な照明を使った演出でした。逗子海岸は、「波の砕け方」が独特です。800mの遠浅な海底の影響で、一斉に波が崩れていく・・・その姿がきれいなのです。だから、他の要素を一切省き、その「波の砕け方」にフォーカスしていく。見せたいものだけをビビットにする手法を表現に昇華させることを選びました。

その結果、人々が無条件に、ただ海岸を見るという時間を作るという演出できました。「プロジェクションマッピング」などでは派手な演出を求められがちですが、派手な演出でなく自然により沿った演出をしました。シンプルに青色の光だけを使用した照明のプロジェクションマッピングです。

中島

それは焚火に近い感覚かな?ずーとただ見ているような。心がここち良くなる、その源泉は何でしょうね?

石多さん

それは「自分と向き合う時間」だと思います。

奈保未さん

今の時代、インプットがあまりにも多いと感じます。情報を整理する時間が必要なはずです。人間のメリハリのあるメンタリング、わくわくする気持ちや、楽しいこと、美しいものに対するセンスを磨く。人、未来、地球、自分に優しい感覚を磨いて、そこから考えることが大切だと思います。

そして、リヨンの光の祭典でも感じましたが、地元にもともとある伝統、財産が次の世代につながっていくといいな、という感覚が、豊かな気持ちを生むと思います。

日常に溶け込んでいる「本質」を浮き上がらせる

中島

コロナ禍になって、家にずっといると、1つ1つがアートだなと感じることがあります。例えば、普通にレストランに行っただけでも、壁・机・椅子・照明どれもがすごい設計でできていると思いました。至るところに、細かなディテールまでこだわりがあります。そういった日常に溶け込んでいる本質を浮き上がらせるアプローチをしているのですね。

奈保未さん

逗子では、海以外にも、小学校の壁をつかったプロジェクトもありました。いつもただ見ていた学校の白い壁が、いきなりプロジェクションマッピングによってまったく別の違うものになるのです。

そこでは、子供たちの作品も使いました。子供たちには「自分たちが関っている!」と感じてもらい、「自分の作品が、プロジェクションマッピングのアート作品としていいな!」と再認識してもらうことでクリエイティブな感情が生まれていきます。

中島

今すごくひらめいた!日常で、意識されていない重要な「空間」として、駅などの天井をプロジェクションマッピングの対象として位置づけると、それだけで豊かになりますね!

石多さん

是非やりたいですね。その時には、スペシャルサンクス・中島さんにしますね^^

中島

うん、10年後の天井は真っ白はありえない!

削ぎ落とすことで生まれる美しさ

中島

合理性だけではなく、感性的でもある構造体は、必然的に生まれていきます。数字が持っている本質と人間の感性から生み出されたのが、YAOKIです。無駄を省いて強度を強くしていく、その繰り返してYAOKIができました。これは、感情的な要素を除いていったと言って良いです。

一方で、感性も重要です。合理的に無駄を削いだ結果、できたものを、自分の感性で眺めてみる。「いい感じ」となれば、そこはOK。技術的な評価基準も良いが、パッと見た感覚も重要ですね。

「なんとも言えないけど、センスがない」「ちゃんと計算したのにダメ」というものは、やはりだめ。名車と言われるのは、スペックだけでなく美しさを持っています。

石多さん

デザインでは、「用と美」が重要な考え方としてあります。必要なものを必要なだけ与えて注力し、ほかのものを削ります。結果、機能的で美しくなる。

中島

先日、蜂を愛してやまらない人と「6の倍数」の話をしました。蜂の巣、6角形のハニカム構造が、2層になっていて、それは12の倍数になっているそうです。私はこの12という数字が好きです。

石多さん

設計の中に軸となるアイデアがあると、いろんなことがかみ合っていく。YAOKIはそうとう削ぎ落して、作りあげられてきているなと思います。

グラフィックデザインの文字もそうなのですが、その文字と文字の間の取り方で、デザイナーのセンスが「一目瞭然」です。

美しいデザイン、レイアウトをするには、文字のわずかな隙間も気になっていきます。感覚の優れたデザイナーは間合いをトータルで見ています。それは、空間の質感・量感にこだわっていることと言えますし、作り手としてその辺の意識があるかどうかが大事だと思います。

中島

数学の魅力は、その本質性。数学はアートであり、原理原則だと思っています。

石多さん

数字の意味。隠されたものが少しわかってきます。ダ・ヴィンチもそうですよね。

中島

数学の先生がなぜ教えてくれなかったのか?と思います。数こそが基本原理だと。先生の教え方によって左右されますよね。

石多さん

学校の先生達も自分の専門の授業は、情熱によってより深く教えられるし、生徒も授業を好きになる。そうした専門の得意分野がある先生から本質を学べる授業は質が高くなります。学びも仕事も、同じように自分の中の本質性に付随してくると思います。

外側の理由で「〜をしなけれならない」では、学びは深まらない。自分が楽しいから、学べる。そういった教育が広がっていけば良いですね。

写真提供: 一般社団法人MASC 東京事務局
取材場所提供:サンワサプライ株式会社

「第3回航空宇宙ビジネスフォーラム in倉敷」のアーカイブ動画をご覧いただけます。
https://aerospace-kurashiki.net/3rd-forum/