【YAOKIのアートセッション】石多未知行さんと対談!in MASC東京事務局(1)

3月20日倉敷市で開催された一般社団法人MASC主催「第3回航空宇宙ビジネスフォーラム in倉敷」。大原美術館で行われた【アート特別セッション】の「アート思考と新産業創出」をテーマに一緒にお話させていただいたお一人、一般財団法人プロジェクションマッピング協会の石多未知行さんにご挨拶する機会をいただきました。

アートの観点から、石多さんと中島のセッションを3回シリーズでお届けします。

プロフィール

石多未知行さん

カラーズクリエーション株式会社 代表取締役
一般財団法人プロジェクションマッピング協会 代表理事
株式会社NIGHT WAVE 代表取締役、MEDI -ARTz主催
METACITY推進協議会 共同代表

東京芸術大学、デジタルハリウッド、市立尾道大学等の非常勤講師
クリエイティブディレクター、メディアアーティスト、空間デザイナー、イベントプランナー、演出家、映像作家、etc.

武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 卒
2005-2006年にイギリスのロンドンを拠点にアーティストとして滞在し、欧州を拠点に活動。帰国後、プロジェクションマッピングに取り組み、2011年に専門団体設立。

井上奈保未さん (石多さんの奥様)

俳優、演出家。
人材育成、コミュニケーション教育、セルフマネジメント講師、司会、ナレーター。

30年以上に亘り俳優として活動しながら、ナレーター、演出家、シアター・テクニックを使った、コミュニケーションや人材育成の講師を務める。
2005年〜2006年文化庁の新進芸術家海外留学研修員として、イギリス・ロンドンに滞在。芸術家が学校の現場に入り授業を行う英国政府のプログラム「Creative Partnerships」や、「The Map」「Shakespeare School Festival」などに研究員として参画。

中島紳一郎

株式会社ダイモン 代表取締役
発明家でロボットクリエイター。長野県生まれ。妻と長男長女。大学卒業後、Boschなどで自動車の駆動開発に20年従事。Audi、TOYOTA等で標準採用されている4WD駆動機構を発明。2012年に機械開発の会社として株式会社ダイモンを設立。創業以来、月面探査車の開発を推進。ロボットが生命化して宇宙に広がる未来を目指している。

(1)マイノリティになることで、「感性」に磨きがかかる
〜始まりは、ともにヨーロッパでの原体験〜

中島

プロジェクションマッピングとの本格的な出会いはいつ・どこですか?

石多さん

2005〜2006年に滞在していたイギリスです(アーティストとしてすでに日本では活動していました)。

中島

イギリスに行くきっかけは何だったのですか?

石多さん

プロジェクションのアーティストとして長く活動していましたが、井の中の蛙では良くないと思ったのです。それで、なんのツテもない場所でゼロからアーティスト活動をやりたくて、彼女(妻)が文化庁の研修員としてイギリスに行くことになり一緒に行きました。現地では、いろんなアーティストと繋がり、力のある人や美術館などもどんどん紹介してもらいました。

ヨーロッパ人の独特のオープンさもあり、「紹介した後はあなたの好きにしていいよ(問題があっても責任はとらないけど)」という感じで、カジュアルに紹介してくれ、1年という短い期間で多くの人と出会うことができました。

ヨーロッパは個人責任で物事を判断しているので、話がダイナミックに動きます。そこは、個人主義の良いとことだと思いました。集団主義は、それと対比すると新しいことが起きにくく、動きが遅くなります。

その結果、日本では挑戦的な事象よりも既存の物事からスタートする「劣化コピー」のような事象が増えていくことになっている気がします。

中島

ヨーロッパの特徴はどういったものがありましたか?

石多さん

ヨーロッパは、光(陰影)の使い方が上手い。ヨーロッパの太陽の光は渇いた空気と相まってパキっとしていますが、対して日本の光はぼやっと霞んでいますよね。絵画でもプロジェクションマッピングや映像表現でもそこがベースになっていると思います。

また、ヨーロッパは光の祭典が多いのですが、フランスのリヨンなどではマリア像や祈りの光が原点となっています。そこから広がって街中の建物や広場などでライトアップしたりプロジェクションマッピングをして楽しむ文化が育まれています。

ヨーロッパはそもそも時間の感覚が違います。夏は夜8〜9時まで明るいですし、夜を楽しむ文化があります。夕方6時くらいから夜の10時過ぎまではディナータイムに充てている感じです。日本ももう少し余裕を持って、ゆっくり夜の時間を楽しむことができれば、違った文化的感性が高まると思います。

中島

私は、同じころにベルギーにいました。

ヨーロッパに行くことは、圧倒的に弱者になることでした。マイノリティになる体験ってめったにないので、それはやった方が良いと思います。日本の常識とまったく違うことが多いです。

石多さん

日本では、ほとんど(※)が同じ人種、同じ言語を使いますが、これは世界的には非常に特殊な環境です。反対にヨーロッパでは、日本人というだけで珍しがられます。

※2020年1月1日時点で約97.5%
 https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00791/

感性を磨くために大切なこと

中島

感性を磨き上げるために必要なことはなんだと思いますか?

石多さん

ヨーロッパで一人のアーティストとして勝負してみると、分かることが多くありました。やはりマイノリティになることで、改めて自分と向き合い「感性」にも磨きがかかると思います。「自分」という軸を持って活路を見出せるかどうかが重要だと思います。

その後、石多さんの奥様の奈保未さんも参加し、話は教育論へと続きます。

日本の教育は、左脳に注力し過ぎている

奈保未さん

私の研修テーマが、教育にアートの力を活用するプロジェクトでした。イギリスは産業が進んだ国ですが、社会的な格差や移民の受け入れなどの背景を受け、識字率が50%ともいわれ、問題となっていました。また、サッチャー首相時代に経済優先がうたわれ、学校教育から伝統であったドラマ(演劇)の授業が削られた為、結局は社会人の能力に落ち込みが見られ、伸び悩んだということです。演劇やアートは、仕事でも必要な表現やチームワーク、コミュニケーションの能力、協働力などに寄与しているのです。

中島

アートやスポーツは右脳を鍛えると思います。文字書きは、左脳です。

奈保未さん

今の日本は、左脳に注力しすぎているように感じます。

結果的に、日本人は一生懸命勉強しても、新しいものを作り発展させる分野が弱くなってしまうのではないでしょうか。未来を想像し、先を読み、プロジェクトや企画全体をトータルで考えデザインすることはとても重要で、日本人がまだまだ得意ではない部分だと感じます。未来へ進むためには、想像力と創造力が必要です。

今後、右脳の刺激が、左脳と組み合わせられるカリキュラム開発が進んでいけばと思っています。ヨーロッパ人の表現力には見習うべきところが大いにあると感じます。演劇やダンスは、人間の深さがでるので、上手いなあと感じることが多々ありました。

中島

演劇といえば、私には負の思い出があります。幼稚園の時の演劇で、決められたこと以外をやってしまいました。椅子が横になっている舞台演出を全部片づけて、こっぴどく怒られました。しかし、子供の心の中では、そんなに怒られるほど悪いのか?と今でも思っています。

枠にはめる先生と、好奇心を刺激する先生がいます。後者が増えることで挑戦的な社会になると思っています。

奈保未さん

進学校の授業を担当したことがあります。彼らの一部は、東大など偏差値の高い大学に行き、ゆくゆくは官僚やCEOといった仕事に就く人材です。その子たちは、素早く大量に覚えることができます。

例えば、シェイクスピアの長い長いセリフを渡すと、1時間くらいで全部覚えてしまったりはする。しかし、自分を伝える、人の気持ちを汲み取る、答えのないものを解く力、そういった能力を上げる余地は大幅にあり、それはとても大切なことでした。

石多さん

ヨーロッパでは、アートの力を生かした教育は、子供たちだけでなく、先生といわれる職業の人(教師、医者、弁護士、政治家など)も対象になっています。

奈保未さん

また、最先端の技術開発者なども対象です。だんだんデジタル化になるからこそ、その源泉となるマンパワーがより重要となるだろうと先読みし、右脳的な感覚を養うプログラムを提供しています。

中島

YAOKIも、そのような挑戦する教育コンテンツを提供したいですね!

写真提供: 一般社団法人MASC 東京事務局
取材場所提供:サンワサプライ株式会社

「第3回航空宇宙ビジネスフォーラム in倉敷」のアーカイブ動画をご覧いただけます。
https://aerospace-kurashiki.net/3rd-forum/